朝ドラ『ブラッサム』のヒロイン像だけで、宇野千代を知ったつもりになってはいけません。
実在の宇野千代は、ただ華やかで自由な「恋多き作家」ではありませんでした。
愛した男の醜聞を小説にし、雑誌『スタイル』を成功させ、着物をデザインし、会社を経営した人です。
そして61歳で会社が倒産し、現在の価値で約5億3000万円にもなる負債と向き合いました。
それでも千代は、桜柄の着物を売り、約5年かけて夫とともに返済を続けます。
恋も、破綻も、原稿の外には置かなかった。
人を思いやる細やかさと、誰かを傷つけてでも書くものを見つけようとする貪欲さ。
その両方を抱えた宇野千代とは、どのような人だったのでしょうか。
電子書籍『宇野千代 恋と別れ、成功と破綻を生きた作家の98年』では、朝ドラだけでは見えない彼女の実像を、資料に基づいてたどりました。
各節の終わりには漫画を収録しています。
文字ばかりの伝記は途中で疲れてしまいがちですが、本書は要所要所に漫画が入るため、複雑な人間関係もスマホでサクサク楽しめます。
数字で見る、宇野千代の波乱に満ちた人生
- 18日間だけ働いた給仕生活
- 初めて手にした原稿料366円
- 4度の結婚と、作品に深く結びついた恋愛
- 完成まで10年を費やした小説『おはん』
- 61歳で会社が倒産。約5億3000万円相当の負債と向き合う
- 約5年にわたる返済生活
- 98歳まで続いた執筆人生
これはすべて、宇野千代1人の人生で起きたことです。
恋愛、創作、経営、倒産、返済。
どれか1つでも1冊の本になりそうな出来事が、98年の中に激しく重なっています。
本書では、明治の岩国で過ごした少女時代から、作家としての出発、雑誌と事業の成功、会社の倒産、借金返済、晩年の執筆までを順に紹介しています。
愛した男の人生さえ、小説にした
宇野千代は、自分の恋愛や別れだけでなく、愛した相手の人生まで作品へ取り込みました。
取材に出かけた相手とそのまま暮らし始め、彼が起こした心中未遂まで小説にする。
恋人の仕事を邪魔しないように廊下では足音を忍ばせながら、その恋人が語った醜聞は作品にする。
相手を思う細やかさと、書くことへの貪欲さが、同じ人の中にありました。
尾崎士郎、東郷青児、北原武夫との生活や別れも、千代の作品と深く結びついています。
しかも千代は、自分を傷つけた側の人間からも物語を取り出そうとしました。
恋も、別れも、誰かの痛みも、原稿の外には置かない。
そこには、単なる「身勝手さ」だけでは片づけられない、作家としての深い業があります。
本書では、誰が傷つき、千代がその関係をどのように小説へ持ち込んだのかを、きれいな成功談で包まずに追いました。
惹かれたところで少し身構え、身構えたところで、また惹かれる。
そんな割り切れなさも、宇野千代を読む面白さだと思います。
約5億3000万円相当の負債を、桜で返す
『おはん』が完成して文学賞を受けた2年後、スタイル社は倒産しました。
会社を支えるために重ねられた北原武夫個人の負債は、8000万円を超えていたといいます。
1959年当時の8000万円を2025年の消費者物価に換算すると、約5億3000万円に相当します。
千代は61歳でした。
銀座の土地建物、熱海の別荘、木挽町の豪邸などが、次々と人手に渡ります。
それでも返済は終わりませんでした。
千代は着物を売り、北原は小説などを書いて、返済を続けます。
千代の着物に多く使われていたのは、彼女の好きな桜の柄でした。
華やかな桜を売って、崩れた事業の後始末をする。
返済が終わったのは、倒産から約5年後のことでした。
本書では、この泥臭い日々も省かずに描いています。
漫画があるから、スマホでも読み進めやすい
文字ばかりの長い伝記は、人物が増えるほど「これは誰だったかな」と戻りたくなることがあります。
本書では各節の終わりに漫画を入れ、誰と出会い、何が起き、どこで恋や事業が崩れたのかを振り返れるようにしました。
文章で背景を知り、漫画で人物の表情や出来事の流れをつかむ。
スマートフォンで少しずつ読むときも、話を追いやすい構成です。
宇野千代の名前は知っているけれど、作品や生涯まではよく知らない。
そんな方にも、堅苦しさを感じずに読み進めていただける伝記的入門です。
こんな方に読んでいただきたい本です
- 朝ドラ『ブラッサム』のモデルとなった人物を知りたい方
- 宇野千代の生涯を最初から読みたい方
- 小説家だけでなく、編集者や実業家としての仕事にも関心がある方
- 成功と破綻の両方を経験した女性の生き方を知りたい方
- 長い伝記を文章だけで読むことに負担を感じる方
朝ドラの向こう側にいた宇野千代は、きれいな成功物語には収まりません。
愛した男の人生を小説にし、会社を失ったあとには桜の着物を売って借金を返す。
そこには、華やかさだけではない身勝手さも、執念も、粘り強さもありました。
宇野千代の生き様に、あなたは惹きつけられるでしょうか。
それとも、反発を覚えるでしょうか。
その答えは、ぜひ本書のページを開いて確かめてください。
